●すでに周知のように、2011年11月、文部科学省は『アイヌの人々の人骨の保管状況の調査について』(20011年11月24日付)を各国公私立大学らに送付し、2012年12月25日までに『大学等におけるアイヌの人骨の保管状況等に関する調査 調査票』を提出することを求めた。その結果、11大学がアイヌ民族の遺骨を保管していると報告している。
こうしたアイヌ遺骨調査においては、アイヌ墳墓盗掘などの実態の解明こそが犠牲となったアイヌ民族の先祖への最低限の敬意であり、そうした徹底した歴史的調査が行われなければ遺骨の個人特定など不可能です。ところが、文科省の調査ではそうした観点は欠落しており、研究資料としての人骨標本整理に止まっています。(資料参照)さらに調査結果は公表されておらず、報道では記述方法のばらつきを同省が整理しているとのことで、今後、各大学別の実態がそのまま公表されるのか否かも不明です。
●そうした中で、北海道大学はアイヌ遺骨問題の最大の加害者であり、アイヌ政策推進会議の2つの作業部会の座長も独占してきましたが、3月28日、『北海道大学医学部アイヌ人骨収蔵経緯に関する調査報告書』(2013年3月21日)に基づき記者会見を行いました。そこで、「北大の三上隆副学長は『土地の所有者からは承諾を得ており、研究者の報告書からも盗掘を裏付ける資料はなかった』」(『毎日』3月29日)とアイヌ墳墓盗掘の事実など全面否定しました!遺骨返還に関しても「個人が特定された遺骨は祭祀継承者に返すが、他大学と足並みをそろえたい」(同記事)として、これまで5回にわたって遺骨返還に至った自らの責任を撤回しかねない姿勢です(旭川・釧路・帯広・三石・厚賀・門別/総数35体)。この驚くべき居直りは、単に北大に止まらずに、アイヌモシリ植民地支配の象徴的問題である遺骨問題において、その歴史的真実と加害責任の追及を封殺する意図が込められたものと思えます。記者からは「1つ1つの墓の所有者から承諾書を得ているのか」との追及・質問があったようですが、北大は「それは不明」と回答しています。
●きたる4月19日には、第11回アイヌ政策推進会議作業部会が開かれ、文科省から「アイヌの人々の人骨の保管状況」の調査結果が報告されます。どのような調査結果が報告されるのでしょうか。アイヌ遺骨調査が今回の調査に止まり、後は「慰霊・研究施設」に遺骨を収納して、上記のような反省なき研究者の研究資料として活用させてそれで済むとするならば、これほど先祖の尊厳が再び蹂躙され侮辱されることはありません。私たちはこうした事態は許しません。政府と大学らは、アイヌ民族が直接関与する調査体制をつくり、アイヌ遺骨の出自や収集経過などの歴史的事実を真摯に調査・追及しなければなりません。そして、遺骨をコタンに返還する条件の整備や賠償などその責任をとらねばなりません。真実の調査によって、このアイヌ民族に対する差別と人権蹂躙の歴史の実態が明らかにされ、加害責任が果たされてこそ、犠牲となった先祖の名誉と尊厳の回復となります。